キスゲミヤビベラ(新称)とアマナミヤビベラ(新称)

昔からよく言われるのが「深場に降りれば、そりゃ珍しい魚にも出会うに決まってんじゃん。。。」。
ここでいう深場というのは潜水調査船で行くような1,000-2,000mの深海の事ではなくて、ダイバーが行くことができる-40m以深の事だ。

当然、僕もそう思うし(笑)、実際、-40m以深の水域はまだまだ一般的には知られていない未記載種(つまり新種)で溢れている。

先日、生物分類学の国際誌「ZOOTAXA」にて、そういう深場の未記載種の1つで「テレラブルス属の一種」としてかなり前からダイバーの間ではよく知られていたベラの仲間2種にようやく和名がつき、うち1種は新種として記載された。

アマナミヤビベラ

アマナミヤビベラ
Terelabrus rubrovittatus Randall & Fourmanoir, 1998
写真提供:橋本 俊久さん

キスゲミヤビベラ

キスゲミヤビベラ
Terelabrus dewapyle Fukui & Motomura, 2015
写真提供:橋本 俊久さん


上の左写真は国内では八丈島や柏島などの深場で見られ、これまで「テレラブルス属の一種」と呼ばれていたベラで、これはTerelabrus rubrovittatusに同定され、日本初記録として新たな標準和名がついた。
成魚の背鰭が黄色くなり、赤い2本ラインの間が白色になるのが特徴だ。

アマナミヤビベラ(新称)
Terelabrus rubrovittatus Randall & Fourmanoir, 1998

また右写真は国内では屋久島や柏島、薩摩硫黄島などの深場で見られ、アマナミヤビベラとよく似ている同属のベラなのだが、このベラは今回、新種として記載され(Terelabrus dewapyle Fukui & Motomura, 2015)、新たな標準和名もつけられた。
成魚の背鰭が透明で、赤い2本ラインの間が黄色になるのが特徴だ。
屋久島ではこちらの記録があり、-60mの緩い斜面で割と普通に見られるベラだ。

キスゲミヤビベラ(新称)
Terelabrus dewapyle Fukui & Motomura, 2015

記載した論文の著者、福井美乃嬢によると、どちらの和名もユリ科の花の名前からとったそうだ。
何とも女性らしいネーミング。。。(笑)
アマナはユリ科アマナ属の多年草で花弁に白地に赤いラインの入る花で、キスゲは多分、ユウスゲ(Hemerocallis citrina var. vespertina)の事で、花弁が黄色いユリ科ワスレグサ属の多年草だ。

うん!今回は素直に綺麗な和名だと思う。。。(^^)

参考:
アマナ【植物図鑑・撮れたてドットコム】
ユウスゲ Hemerocallis citrina var. vespertina 三河の野草

ちなみにこのテレラブルス属という属名にも「ミヤビベラ属(新称)」という和名がついたのだが、これまた福井美乃嬢によると「その特徴的な細くしなやかなからだで水中で泳ぐ様はとても雅やかであろう」というところからこの属名をつけたとの事。。。

ミヤビベラ属(新称)
Labridae: Terelabrus Fukui & Motomura, 2015

彼女はダイバーなのだが、まだビキナーの域を脱していないので(笑)、当然、深場に生息するこのミヤビベラ属のベラを水中では見たことがない。

実はこのベラ、暗い深場でライトも当てずに見ると、メチャクチャ地味なんだよね。。。(^^;)
小さく細~いベラで、深い水深で見る赤いラインは黒やこげ茶見えるので、とにかく目立たない。
とても彼女の言う「雅やかな」泳ぎを見せるベラではないんだよね。。。残念だけど。(笑)

確かに深場に降りれば、そりゃ珍しい魚にも出会うに決まってる。
なにせ、-40m以深の水域はまだまだ一般的には知られていない未記載種(つまり新種)で溢れているからだ。

しかし、それに気づくかどうかは別の話だ。。。
やや暗い深場で、まだ知られていない、ひっそりと生活している地味~いな魚たち(未記載種=新種)に気づいてあげられるのは、浅場でもキッチリ普通種を観察しているダイバーだけの特権であって、誰でも深場に降りれば珍しい魚に出会えるわけではないのかもしれない。。。(^^;)

参考:

Zootaxa 4040 (4): 559–568 (13 Nov. 2015)
A new species of deepwater wrasse (Labridae: Terelabrus) from the western Pacific Ocean
YOSHINO FUKUI & HIROYUKI MOTOMURA
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コンゴウテンジクダイ(新称)

コンゴウテンジクダイ(新称)の成魚。

コンゴウテンジクダイ(新称)の成魚。

先日、出版された日本動物分類学会の和文会誌「タクサ」第39号で、これまで和名がないので屋久島では”アオスジテンジクダイ近似種”などと呼んでいたApogon fleurie⇒Ostorhinchus fleurieuが日本初記録として報告され、”コンゴウテンジクダイ”という新標準和名が提唱された。

コンゴウテンジクダイ(新称)
Ostorhinchus fleurieu Lacepède, 1802

このテンジクダイは屋久島ではアオスジテンジクダイ同様に超普通種で、幼魚から成魚まで見られ、再生産もしているようだ。

なのに国内の他の海域では決して多くは見られないようなので、「屋久島ならでは」の魚のひとつとして紹介したりしている。(地味なので大抵は興味を持ってもらえないのだけど。。。(笑))

コンゴウテンジクダイ(新称)の若魚。

コンゴウテンジクダイ(新称)の若魚。

コンゴウテンジクダイ(新称)の幼魚。

コンゴウテンジクダイ(新称)の幼魚。



最も分かりやすいアオスジテンジクダイとの違いは尾柄部の黒斑だ。
アオスジテンジクダイはクッキリとした黒帯になっているのに対し、コンゴウテンジクダイのそれはボケた黒斑だ。

これは小さな幼魚でもそうなので、識別は意外に容易。

体色もアオスジテンジクダイが明るい黄色なのに対し、コンゴウテンジクダイは暗めのこげ茶色だ。

【成魚の比較】 上:アオスジテンジクダイ 下:コンゴウテンジクダイ(新称)

【成魚の比較】
上:アオスジテンジクダイ
下:コンゴウテンジクダイ(新称)

【幼魚の比較】 上:アオスジテンジクダイ 下:コンゴウテンジクダイ(新称)

【幼魚の比較】
上:アオスジテンジクダイ
下:コンゴウテンジクダイ(新称)



毎年、春先にはゼロ戦や漁礁などに近似のアオスジテンジクダイとともに沢山の幼魚が着き、今年も、現在はちょっと成長した若魚サイズの連中が大量に群れている。

面白いのがアオスジテンジクダイとは明確な棲み分けは見られず、同所的に混泳している事だ。(成魚も!)

これでは間違い(別種同士の交雑)もあるのではないか?と心配してしまう。。。(笑)

参考:
吉田 朋弘・本村浩之.2015 (Aug.).鹿児島県から得られた日本初記録のテンジクダイ科魚類コンゴウテンジクダイ(新称)Ostorhinchus fleurieu.タクサ,39:

祝!ついに「赤ヘビ」が新種記載!(^^)

全国100万人のヘビギンポ・ファンの皆様こんにちは!

本日、ついに伊豆界隈で15年以上前から話題になっていた通称「赤ヘビ」というヘビギンポが、日本動物分類学会が発行する国際学術誌「Species Diversity」に新種として記載され、ようやく標準和名がつきました!
その名もそのまま「アカヘビギンポ」!
覚えやすいなぁ~!

だってそのままだもん。。。(笑)
まだ名前のない時代からダイバーの間で呼ばれていたニックネームがそのまま標準和名になった形です。
いや~長かった。。。

標準和名: アカヘビギンポ(新称)
学名: Enneapterygius phoenicosoma

これに合わせて、僕が運営する「ヘビギンポのデータベース ヘビベース!(http://triplefins.fish-net.jp/)」内で「赤ヘビ」としていたものをすべて「アカヘビギンポ」に書き変えておきました。(^^)

アカヘビギンポは僕がヘビギンポに興味を持つようになるさらにずっと前から、東伊豆のIOP界隈や三宅島などの「浅場でのんびり&まったりダイバー」の間では有名な謎のヘビギンポで、最初の頃はその赤っぽい婚姻色からミヤケヘビギンポなどと混同されていた種類です。(そもそもサイズが違ってた。。。(笑))

その後マクロがブームになり、当初は見つからない!と言っていた西伊豆の大瀬崎界隈や紀伊半島、四国、伊豆諸島、九州など日本の太平洋岸各地で見つかるようになったわけですが、当初は温帯種だと思っていました。
しかし、今では沖縄やここ屋久島などでも見られることが分かり(少ないけど。。。)、伊豆半島以南の日本各地で見られることが分かっています。

水深-5m前後の浅い海域にある岩の側面などで見られ、やや赤味のある小型のヘビギンポで、メスやオスの普段の姿はちょっと地味なのですが、繁殖期のオスは鮮やかな赤で染まり、頭部のみが真っ黒くなるため、とても目立ちます。
さらに鰓の際が白くなるのがミヤケヘビギンポの婚姻色とは大きく異ります。

全国100万人は下らないと言われるヘビギンポ・ファンの皆様もさがしてみてください!(笑)

「毎日潜る」という事。その1

ベンガルフエダイの群れ

ベンガルフエダイの群れ

よくお客さんにこんな事を言われる。
「原崎さんはワイド(大物・群れもの)よりも、マクロ(小さい生き物)の方が好きなんですよね?」

また、同じようにこれもよく言われる。
「屋久島はマクロがメインの島なんですよね?」

「えっ??なぜですか??」と聞くと、「だって、いつもFacebookやブログに載っている原崎さんの写真はマクロばかりじゃないですか~!」と返される。。。(笑)

いや!ちょっと待ってくれ。。。!(^^;;
僕は自然や生物、そして水中写真は好きだけど、特にマクロだワイドだと切り分けて考えているつもりはまったくなくて、そもそもレンズの選択は自分の趣向ではなく、その時々の自然の状況や動きに合わせて臨機応変に切り替えている。
なぜなら毎日、海に潜っているからだ。
さらには、どちらか選べと言われればむしろワイド的な写真の方が好きだとさえ思っているのだけど。。。

ツムブリの群れ

ツムブリの群れ

なのに、そういうマクロ写真を好んでいるというイメージを持ってしまうのは、多分「毎日、海に潜っている」という絶対に加味すべき条件設定が抜け落ちている事にあると思う。
毎日、海に潜るという感覚は、実際にやってみないと理解するのがなかなか難しい。
僕は現地ガイドなので、朝起きたら歯を磨くのと同じ感覚で毎日海へ行く。
しかも毎回、同じ海に、そして何年も。

毎日同じ海を何年も潜り続ける事を前提にした場合、ワイド一辺倒ではきっと続かない。
これはやってみると分かる事なんだけど、大物・群れなどワイド的なものにしか興味がないと、何年もの間、同じ海で毎日潜り続けるのはかなり厳しいと思う。

泳ぎ去るアオウミガメ

泳ぎ去るアオウミガメ

実際、僕と同じように毎日のように同じ海を潜り続けている各地のガイドさんや、趣味として毎週のようにホームグラウンドの海を潜っている一般のダイバー、つまり海が三度の飯よりも大好きなダイバーのほとんど(ほぼすべて?)は、間違いなく主にマクロレンズをカメラに着けて潜ることの方が多いのではないだろうか?
それは決してマクロ好きだからというわけではなく、マクロだワイドだと特に切り分けることなく、その時々の自然の状況や動きに合わせてマクロとワイドを臨機応変に切り替えているのではないだろうか?
そうなると、おのずとマクロの割合が多くなってしまうのは当然の話。

なぜなら、頻繁に潜ることで、より深く海を知ろうと思うと、ワイド的な目線や興味だけでは続かない。
少なくとも「四季を通して毎日」、「同じ海に」、「何年も」潜り続けるためには、興味の対象が幅広くないとまず無理なのだ。
海や生物が大好きで、そして毎日、または頻繁に潜るためのマクロレンズだとも言える。

ワイドだけだと、そこまで好奇心は続かない。
海は常に変化しており、毎日ワイドに適したクリアーで明るい海や回遊魚が渦巻く状態が続くわけではないからだ。
仮に1年中、そのような状態が続く海だとしても、やはり毎日潜っていればワイド目線だけだときっと飽きがくる。。。

実際、主にワイドレンズだけをカメラに着けて、「四季を通して毎日」、「同じ海に」、「何年も」潜っているガイドさんやダイバーを僕は知らない。
多分、いないと思うけど。。。(笑)

アザハタとキンメモドキ

アザハタとキンメモドキ

ある冬季の1か月間に撮った写真の中から、僕のワイドとマクロの写真の割合を調べてみた。
ワイド8日間、マクロ20日間。

「ほ~らね。。。やっぱり、あなたマクロ好きですよね?」

これだけ見ると、そんなことを言われそうだけどちょっと待ってくれ。。。!(笑)

日頃から「大物・群れは好きだけど、小さな生き物にはまったく興味はありません!」と豪語するワイド志向のガイドさんの場合、間違いなくゲストのいない冬季は僕のように毎日のように海に入る事はほぼないと思うんだけど、日数にしたらどれくらい海に入っているのだろうか?

まったく海には入っていない可能性もあるけど(笑)、週一で潜ったとして4日間くらい?(^^;;
これを元にして同じように、ワイド志向のガイドさんにおけるワイドとマクロの写真の割合をチェックしてみる。
ワイド4日間、マクロ0日間。

ほ~らね。。。僕の方がワイドの日数は多い!(*^▽^*)
僕の方がワイド好きですわ!(笑)

仮に週2日、海に入ったとしても、ワイド8日間、マクロ0日間で、ようやく”ワイド好き度”は僕とイーブンだね!(^^)

そう、僕のワイド写真を撮る日数やワイド志向のダイビングを行っている日数は決して少なくはないのだ。(笑)

新種・キホシスズメダイ?(^^;;

僕ら素人は「新種」というと普通は新たに見つかった未知の生物の事を指すのだと思ってしまうけど、実はすでによく知られた生物が「新種」になる事も頻繁に起こる。

先日、発行されたSpecies Diversityという雑誌で、僕らダイバーがよく知っているキホシスズメダイが新種として記載された。
どういう事かというと、日本で見られるキホシスズメダイは1960年に蒲原さんという研究者によって新種として記載され、Chromis flavomaculataという学名とキホシスズメダイという和名がつけられた。

ところが、この時、記載する際に元となった高知県で採取された標本を調べてみると、なんとそれはスズメダイ(学名:Chromis notata)だったのだ。(笑)
つまり当時、蒲原さんは高知県産のスズメダイを見て「新種だ!」と思ってしまい、誤って新たな種類として記載してしまったのだ。
という事でChromis flavomaculataという学名の魚は存在しないことになる。

新種 キホシスズメダイ

新種 キホシスズメダイ

しかし僕らも知っているように、「スズメダイ(学名:Chromis notata)」とはまったく違う「キホシスズメダイ」という魚は確かに存在している。
日本全国どこでも見られて、潮通しの良い中層で大きな群がりをつくる尾鰭が黄色い魚がそれなんだけど(笑)、それを僕らは和名で「キホシスズメダイ」と呼んでいる。
それで今回、この学名がなくなってしまった「キホシスズメダイ」に新たにChromis yamakawaiという学名がつけられ、新種として記載されたのだ。

新種
和名: キホシスズメダイ
学名: Chromis yamakawai, Iwatsubo 2013

もともと魚を和名で呼んでいる僕らダイバーにとってはどうでもいい事なのだけど(笑)、分類学の世界ではこういう事が頻繁に起こる。。。
でも、これも「新種」なのだ。(^^;;

これを調べていく過程でもうひとつ面白いことが分かったようだ。
国内で見られるスズメダイ(学名:Chromis notata)は生息する地域によって、形の違う4タイプが見られるらしい。
日本海側で見られるスズメダイは体高がものすごく低いのに対し、太平洋側で見られるスズメダイは体高がかなり高いのだそうだ。
さらには伊豆諸島で見られるスズメダイはもっともっと体高が高くなり、これは今までスズメダイの亜種として別途ミヤケスズメダイという和名で呼ばれていたほどだ。(今回の研究でミヤケスズメダイは単なる地域変異という事で和名は消滅した)
そして瀬戸内海・東シナ海で見られるスズメダイはその中間的な体高らしく、スズメダイには合計4タイプが見られるらしい。。。

屋久島のスズメダイ

屋久島のスズメダイ

確かに僕のホームグラウンドである屋久島の一湊で見られるスズメダイは伊豆など太平洋側で撮られたタイ焼きみたいな大きなスズメダイとは何か違うなぁ。。。とは思っていたので、ちょっと納得した。(笑)
一湊のスズメダイはものすごく小さいのだ。

それに対して、屋久島の南部では体高の高い大きなスズメダイも見られることから、多分、屋久島には体高の高い太平洋側タイプ(もしくは伊豆諸島タイプ)と中間的な瀬戸内海・東シナ海タイプが存在しているように感じる。

もう一度、そういう目で見比べてみようかな。。。